アキレスと亀の話

昔話に「アキレスと亀」というものがあります。アキレスという俊足で知られる神話の英雄が亀と徒競走をするというものです。しかしアキレスが亀より速いのは明確なので、ハンデとして亀はアキレスよりも前からスタートするものとします。さてさてレースの行方や如何に?

 

レース開始直後アキレスは猛スピードで亀を追います。しかしアキレスが亀のいたところに付くころには、亀はそこにはいません。鈍足ながらも、亀も前進しているのです。
さらにアキレスは亀を追いかけますが、どれだけ亀のいたところにたどり着いても亀はすでに先に進んでいるので亀に追いつけません。
つまり、ハンデを設けると俊足のアキレスは亀に決して追いつくことができないのでした。

 

これを現代で例えると「ウサイン・ボルトと亀が、ハンデを設けて競争したら、ボルトは亀に追いつけない」という事になります。これを読んで、皆さんは「そんなはずはない」「アキレスと亀はインチキだ」と感じることでしょう。確かにアキレスと亀の結論は現実に起こりうる結果と矛盾しています。ですがアキレスと亀の理屈は決して「ある意味間違いではありません」。このもやもやした矛盾はどのように解消できるでしょうか?

 

解決の鍵は「ゴールがどこか言ってない」ということです。ここで競争の舞台を現代に移して考えて見ましょう。
ウサイン・ボルト選手は100mを9.68秒で走ります。亀と競争ということで本気を出さなかったという事にして、100mを10秒で走る速さ(=秒速10m)で走ったとしましょう。一方の亀は100m走るのに100秒かかる(=秒速1m)とします。さらに走る距離は100mで、亀とボルト選手のハンデは50mと設定しましょう。

 

【スタート】                   【ゴール】
 ボルト———————亀———————100m

 

レーススタートから1秒、2秒と秒単位で両者の位置を割り出してみましょう。1秒後にはボルト選手は10m、亀は51mの位置にいます。2秒後には20mと52m、(中略) 5秒後には50mと55m、6秒後には60m、56m・・・
おや?スタートから6秒後にはボルト選手が亀を追い抜いてしまっています。計算では「5秒5のときに55mの地点で亀は追いつかれてしまいます」。やはりアキレスと亀は大嘘だったのでしょうか?

 

では今度はアキレスと亀の理屈である「亀は以前の位置よりも先に進んでいる」ということを順序だてて考えて見ましょう。
ボルト選手が亀のいる50mまで進む間(=5秒間)、亀は5m進んで55mにいます。ボルト選手がさらに55mのところまで進む間(
=0.5秒間)亀はさらに0.5m進んで55.5mのところにいます。これを繰り返していくと、ボルト選手が亀に追いつくまで5.5555555555555…秒かかることになり、この時間は無限に細かく刻むことが可能です。
つまり「ボルト選手が亀に追いつく時間である5.55555…秒を超えなければ」ボルト選手は亀に追いついていないことになり、アキレスと亀の「アキレスは亀に決して追いつけない」という結論が上の前提を設けることでなりたっています。

 

アキレスと亀の矛盾は「アキレスが亀に追いつく時間の内であれば」という前提が欠けていたために起こったということが証明できました。つまり「語弊」であったということです。このアキレスと亀の話はエレア派のゼノンという哲学者が考えた「ゼノンのパラドクス」と呼ばれるものの一つです。論理的に考えなければ「アキレスは亀に決して追いつけない」という結論で「永遠に(=∞秒かかっても)追いつけないと勘違い」してしまうことを示しました。無限なのは追いつくまでにかかる時間ではなく、「追いつく時間を割る回数」だったのです。
5+0.5+0.05+0.005+…=∞? ×
5+0.5+0.05+0.005+…=5.5555555… ○

 

ミドリガメ